実践ノウハウ
実践ノウハウ
作成日:2026/07/15
業務が残っているのに定時で帰る従業員、どう向き合う?



「納期が遅れているのに、
 定時になるとさっと帰ってしまう」

「有給休暇の取得は権利だとわかっていても、
 このタイミングで休むのかと思ってしまう」

中小企業の経営者や管理職の方から、
こうした悩みを伺うことがあります。

しかも、その従業員が経験豊富で、
簡単には替えがきかない存在だったりすると、
余計に言いづらい。

「下手なことを言って関係がこじれたら…」

「辞められたら困る…」

そんな気持ちが重なって、
何も言えないまま時間だけが過ぎていく。

この問題は、
単純に「けしからん」で
片づけられるものではありません。

法律・組織の仕組み・人間関係の
3つの視点から整理してみます。



まず確認しておきたい法律上の整理

最初に押さえておきたいのは、
定時退社も有給休暇の取得も、
従業員の権利として法律で認められている
という事実です。

労働基準法上、
所定労働時間を超えて働く義務は、
原則として従業員にはありません。

残業は、36協定の締結と
本人への指示があってはじめて
成立するものです。

また、有給休暇は従業員が
時季を指定して取得できる権利であり、

使用者が拒否できるのは
「事業の正常な運営を妨げる場合」
に限られます(時季変更権)。

つまり、

「納期が迫っているのだから残業してほしい」
「この時期に休まないでほしい」

という気持ちは理解できますが、
法的には従業員側に非があるとは
言い切れないケースがほとんどです。

この前提を飛ばして感情的に対応すると、
かえってトラブルが大きくなる
可能性があります。



本当の問題はどこにあるのか

では、この状況で
モヤモヤの正体は何でしょうか。

多くの場合、問題の本質は
「定時で帰ること」や「有給を取ること」
そのものではありません。

ひとつは、責任感の温度差です。

納期が遅れている、受注を断るかもしれない、
という状況に対して、経営者や管理職は
危機感を持っている。

一方、従業員は
同じ温度感を共有していないように見える。

この「温度差」が、
苛立ちや不信感の原因になっています。

もうひとつは、期待の言語化不足です。

「こういう状況なら、
 多少は無理してくれるだろう」

「言わなくてもわかるはず」

という暗黙の期待がある。

しかし、従業員からすれば、
明確な指示や依頼がなければ
「自分の判断で動いている」だけです。

そしてもうひとつは、
その人に依存している構造です。

経験や知識があるからこそ、
「ヘタなことは言えない」と感じてしまう。

これは人間関係の問題であると同時に、
組織の構造の問題でもあります。



感情的に対応すると何が起きるか

こうした場面で、
つい言いたくなることがあります。

「納期が遅れているのに休むってどういうこと?」

「周りはこんなに頑張っているのに」

しかし、こうした言い方は、
いくつかのリスクを伴います。

有給取得や定時退社を否定するニュアンスは、
ハラスメントや権利侵害と受け取られる
可能性があります。

たとえ悪意がなくても、
言葉のニュアンスひとつで
関係が大きく損なわれることがあります。

また、経験豊富な従業員であればあるほど、
正面からの圧力には強い反発を
示すことがあります。

結果として、
「もういいです。辞めます」
という展開にもなりかねません。

感情は自然なものですが、
感情のまま動くことと、
感情を整理してから動くことでは、
結果がまったく違います。



では、どう対応するか - 4つのステップ

1.期待を「暗黙」から「明示」に変える
まず取り組むべきは、
「何をどこまでお願いしたいのか」を
明確に伝えることです。

「今月は○○の納期が△日に迫っていて、
 □□の工程を完了させる必要がある。
 あなたの力が必要なので、
 今週は残業をお願いできないか」

このように、具体的な
状況・理由・依頼内容をセットで伝えることで、
従業員も判断がしやすくなります。

「言わなくてもわかるはず」は、
組織規模に関わらず陥りやすい落とし穴です。

2.業務と納期の「見える化」を仕組みにする
個人の判断に頼るのではなく、
チーム全体で業務の状況と優先順位が
見える状態をつくることが重要です。

たとえば、週の初めに
「今週の納期一覧」と
「各自の担当・進捗」を
共有するだけでも、
状況認識のズレは小さくなります。

「自分の仕事は終わっている」
「自分だけが頑張っている」
という認識の食い違いは、
情報が共有されていないことから
生まれることが多いものです。

仕組みで見える化することで、
個人を責めるのではなく、
「チームとしてこの状況をどう乗り越えるか」
という対話に変えることができます。

3.必要なときに
 残業を指示できる仕組みを整えておく
「お願い」で動いてもらえる関係が
いちばんですが、それだけでは
対応しきれない場面も出てきます。

そのときに備えて、組織として
残業を指示できる仕組みを
整えておくことも大切です。

残業の指示が法的に有効であるためには、
いくつかの前提があります。

まず、36協定
(時間外・休日労働に関する労使協定)が
締結・届出されていること。

これがなければ、そもそも
法定労働時間を超える残業を
命じることはできません。

少人数の組織では、36協定の届出自体が
抜け落ちているケースも少なくありません。

次に、就業規則や雇用契約書に、
業務上の必要がある場合に時間外労働を
命じることがある旨が明記されていること。

この記載がなければ、
従業員が「契約にない」と主張する
余地が生まれます。

この2つが揃っていれば、
業務上の合理的な理由がある場合に、
残業を業務命令として指示することが
法的に可能になります。

ただし、仕組みを整えることと、
いきなり命令を出すことは別の話です。

普段から状況の共有や
丁寧な依頼を重ねたうえで、
それでも組織として必要な場面では
明確に指示を出せる。

その「段階」を持っておくことが、
安心材料にもなります。

4.「言いにくい相手」との関係を見直す
「経験があるからヘタなことは言えない」
という状態は、実は組織として
健全ではありません。

経験や知識を持つ従業員は
貴重な存在です。

しかし、その人に対して
必要な業務上の指示や依頼が
できない状態が続くと、組織の意思決定が
特定の個人に左右されることになります。

これは、
その従業員が悪いという話ではありません。

「言えない構造」が長く続いた結果、
双方にとって不健全な関係が
固定化してしまった、ということです。

まずは小さな依頼や確認から始めて、
「伝える・話し合う」という回路を
少しずつ太くしていくことが大切です。

一度の対話で
すべてが変わることは期待せず、
関係性を徐々に整えていくイメージで
進めていきましょう。



「権利の問題」で終わらせない

定時退社も有給取得も、
法律上の権利です。

そこは揺るがない前提として
受け止める必要があります。

しかし、感じているモヤモヤは、
権利の話だけでは片づかないはずです。

「この状況でなぜ
 当事者意識が感じられないのか」

「こちらの切迫感が
 伝わっていないのではないか」

その違和感の多くは、

・期待が言語化されていないこと

・状況が共有されていないこと

そして

・関係性の中で言いたいことが
 言えなくなっていること

から生まれています。

従業員の権利を尊重しながら、
組織として必要なことは伝える。

その両立は、決して不可能ではありません。

まずは「何をお願いしたいか」を
具体的な言葉にするところから
始めてみてください。



働き方やルールをめぐる悩みは、
制度の整備だけでなく

それぞれの立場のあいだにある
期待や認識の小さなズレから
生まれていることがあります。

「言いたいことが言えない関係を変えたい」

「権利と責任のバランスを
 どう伝えればいいかわからない」

「業務の偏りや属人化を少しずつ見直したい」

そうしたテーマを、制度面と
現場の空気の両方から整理したい方は、
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